2015-09-26
森美術館「ディン・Q・レ展:明日への記憶」を観てきました。

森美術館「ディン・Q・レ展:明日への記憶」を観てきました。
今回の一時帰国で
ぜひ伺いたかった展覧会の1つです。
それは今の私の「状況の変化」にあります。
私は現在シンガポールで生活していています。
ベトナムというのは現在の私の生活で
同じコンドで働くたくさんのメイドや
街中にある沢山の「レストラン」。
行ってみたい国の1つでもあるわけです。
そしてそういう今、ベトナムからきてる人
ベトナムと関わってる人と
日々直接話していると
今まで日本に住んでいては感じることができなかった
彼らの「肌感覚」のようなものが
以前よりかはわかるようになりました。
この経験を踏まえて、ベトナムの現代アーティストの作品を
ぜひ体験してみたい。そう思ったのです。
私にとってテレビの中だけしかなかった
ベトナム戦争やその後のストーリーが
テレビの中から飛び出してきたことを実感しながら
このストーリーはどこへ向かうのかを
常に考えていました。

特に写真を拾う行為が組み込まれた
《抹消》(2011年)は
船に乗って命がけで脱出する行為の疑似体験であり
現在のシリア難民のストーリーを連想させ
同時に「当事者以外の第三者の行為によってすべてが救えるわけではない」
という現実をつきつけられました。
私のようにベトナム戦争をテレビで知らない息子は
さてどう感じていたのか。
彼にとってはベトナムといえば美味しいフォーや
友人の家のメイドなど
生活に密着したイメージしかありませんでした。
そして同時に普段から行き来する
シンガポール国軍の姿を観ていて
彼の中では「軍隊」と「戦争」のイメージは
私と相違してる部分が多く出てきました。
彼にとって軍隊は現実でも戦争はどうも見えてこないようです。
《抹消》(2011年)でシリア難民の話もしたのですが
彼は多民族国家の中で生活しているので
移動についてあまり深い意味を感じていないようでした。
危ないなら逃げよう。それだけ。
移動において使用される語学とか
持ち物とかとても具体的なことに興味をもっていました。
そこで私は気がついたのです。
この展覧会は1側面から見ただけでは「始まりもしない」と。
世界情勢が常に動くように
作品も常に「変化」する。
で、君はどう思う?世界はそこから始まるんだと。
そこに気づいてから
なるべく沢山のことを思い出しながら
鑑賞を行うことにしました。

《農民とヘリコプター》(2006年)の前で
ベトナム戦争とヘリコプターのことだけを思い出さず
Singapore Art Museumで見た
Tran Luong《Steam Rice Man》(2001年)と絡めて
ベトナムと農業についても思い出すなど
なるべく多面を意識して鑑賞するようにしてみました。
現代の作家さんの表現は
まさに現代の私たちのなかに
ダイレクトに入っていきます。
私たちはスマートフォンをいじりながら
PCに向かい、チャット画面に速攻で返信をします。
アートだって多面的にみたほうが
今の時代にあってるのかもと
実感することができました。
「日本を離れ、アジアで、軍隊のある国で生活する人にぜひみてほしい」
というご誘いを以前いただき
どうしても耳から離れなかったんですね。
実際に鑑賞して熱心にお誘い頂いた意味がわかりました。
ありがとうございました。

なので
《人生は演じること》(2015年)については
とても感情的な想いが湧き上がってきて
最初すごく困りました。
あんたなにやってんのみたいな感覚です。
しかしタイトルが《人生は演じること》になっていて
と原点に引きずり戻されるような衝撃を覚えました。
私がさっきまで感じていた感情も
もしかして「演じていたこと」?

実際に私が話したことがある
ベトナムに関連した人々は
本当に可愛らしくて
穏やかな人が多いです。
彼らの表現の中には
強さとやさしさが同居しています。
《光と信念:ベトナム戦争の日々のスケッチ》(2012年)において
ベトナム戦争の従軍の中で描かれた数々の絵画の中の
やさしさとしなやかさがどよめいた私の心を
解きほぐしてくれました。
10月12日まで。
必見です。お急ぎください。
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